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2025年9月12日金曜日

35シリーズの針


SC35Cの針と一緒に同じ35シリーズの交換針のデッドストックが何種かまとまって入荷した。




35シリーズや44シリーズなど、シュアーではシリーズ内の針の互換性を保証しているので、これらの針は、たとえば35シリーズであれば最古参のSC35Cを後発の針と組み合わせることで軽い針圧へ変更したり、より高出力・広帯域の音にアップグレードしたりとそれぞれの特性を活かしたカスタマイズができる。


今回入荷した針は最終ロット付近のごく新しいもの。シュアーがアナログ針の生産を終えてから7年あまり経つので、念のため販売前にはSC35Cに付けて一つひとつ試聴している。今まで不良品はひとつも無いが、個体差の大きさには閉口している。

シュアーの針には個体差がある。その事は以前から知っていたし、どんなものか充分解ったつもりでいたが、今回同じ型の針をいくつも聴いた事で、その認識が甘かったと痛感した。自分が思っていた以上に個体差は大きかった。

近年のメキシコ製に限った事ではないが、シュアーの針は見た目からして針の仕立てに一個一個バラつきがある。カンチレバーの付き方からダイヤチップの植わり方、製造時期が異なるとカンチレバーそのものの形状も違うし、SC35CとM44Gに至っては製造時期によって針径さえも異なっている。建前である製品仕様からして揺れがあるのだ。アナログの世界のこと、形が違うものの音が同じ訳はない。


そして、今さらながら気付いたのが、ダイヤチップの仕様だ。


説明書に“All Shure styli feature a polished, natural diamond tip”とある。シュアーは近年の工業用ダイヤモンドでは一般的でなくなった天然ダイヤを針先に採用していたのだ。


スタイラスチップが人工ダイヤでないと知って、個体差のことがストンと腑に落ちた。


これが針の製造を終えるまで貫かれたシュアーのこだわりだとしたら、針の個体差も良し悪しではなく個性であり、それも含めてシュアーの音なのだと好意的に理解すべきかも知れないし、そう捉えるしかないかも知れない。


ただ、そんな風に弁護してはみたものの、同じ型の針でもスパッとした音色の個体と角の取れた穏やかな出音の個体が入り交じっている。「こういう音です」とひと言で云えないほどキャラクターに振れ幅があるのは困ったものだ。








2025年9月1日月曜日

再改変

 良い部材が手に入ったので、売れ残りのモノラルアンプを下げてきてもう一段煮詰めてみた。

このアンプは当店でカスタマイズしたもの。カスタマイズとは言っても定数は一切変更しておらず、ボリュームポットや内部配線、ハンダといった音声信号の通り道の部材変更だけで音を作っている。

今回もやっぱり定数変更はせずに部材を再変更しただけだが、狙った通りの音になったのと同時に、少し前からうっすら思っていた事の裏が取れた結果となった。


多くの人にとっての“良い音”になる条件は、モノラルとステレオでは異なるということ。ステレオで良い音を聴かせるペアスピーカーの片側一基をモノラルで鳴らすと必ずしも良い音で鳴らない。それと似た事が、音声信号の通り道でも起きていた。

2025年8月15日金曜日

SC35Cのチューニング その後

 先般ブログに掲載したシュアーのSC35Cについて、その後何件かのお問い合せを戴いた。


いずれも販売をとのご用命だったが、最初の1件のみ受け付けて、あとは一旦お断りしていた。
理由は交換針の在庫切れ。

以前から折りに触れ度々書いてきたが、MM型やMI系といったカートリッジは音に関わる大半を交換針の良否が握っている。さらに切り分けて言えば、それは針先・カンチレバー・ダンパーの良し悪しという事になる。
以上はあくまでも当店の見方に過ぎないが、この観点からすると、どうしても中古針は新品の交換針よりも劣るという事になる。これまでカートリッジのチューニングなどであれこれと針をいじってきた中で得た実感として、結局のところ音の取水口である針そのものが良くなければ元も子もないのだ、というものがある。

飛び抜けて当たりの針というのは確かにあるし、少々使って馴染んだ針の音のよさというものもある。ただ、それらは常にそうあるという性格のものではない。当たりの針だっていずれ磨耗する訳だし、馴染んだ音の“良い按配”も使っているうちに通過する地点だ。
いま良い音が出ていても、それが普通の針のアタリがついた頃のものなのか、当たりの針のダメになりかけた時分の音なのか。中古針はその現在地が判りづらい。

お客さんが安心して使えるものが、売り手がハラハラしながら売る物にあるはずがないので、不本意ながら2件目以降はお断りした。その当座は在庫の新品交換針が1本しか無かったからだ。


ところが、盆休み前になって思いがけず交換針が手に入った。



2011年以降のロットの針がまとまって出てきた。
個人的に、M44Gでは箱の横腹にごちゃごちゃ書かれたこのステッカーの貼られた頃の針には音の良いものが多いという印象を持っている。なにぶん個体差のあるシュアーの針なので、“ハズレが少ない”と言う方が正しいのかも知れないけれど。SC35Cではどうだろうか?

終売から7年あまり経ってプレミア化が進む中で、最近はシュアーの新品交換針の入荷は運頼みとなっていたから、今回のあまりにもタイムリーな入荷は嬉しい一方で、ちゃんと商品が届くか最後まで疑念を持っていたほどだった。


ともかく、これで安心してSC35Cを送り出せる。


2025年7月31日木曜日

SC35Cのチューニング

 売り物にならないシュアーSC35Cを分解して造りを観察してみた。

面白いことに本体格納部と外殻の接着箇所は前後に分かれており、組み合わせた状態では両者の間に空洞ができる。これが音づくりとしての意図的な設計か否かは判らないが、この構造だと天面をベタ一面で接着しているM44系と比べて針鳴きが大きく出そうだ。

本来、針鳴きは排除すべき不要振動にあたるが、当店では活かすべき響きと捉えているので、この構造を利用してSC35Cをチューニングしてみることにした。


今回は試行の1回目でこれはという音が出た。
響きの階調が増して、音場の背後に埋もれていた細やかな響きがほぐれて聴こえる。音場表現自体も広くなった印象で、全体的によりいっそう伸びやかな鳴り方へと変わった。

佇まいや製品の仕様から粗い音の安物針というイメージを持たれている感さえあるSC35Cだけれど、実際にはバランスのとれた素直な音と高い耐久性を兼ね備えたモデルであり、古典的なカートリッジの特質を色濃く残した稀有な存在でもある。そうしたSC35Cならではの良さをより良い形で引き出せたと思う。


SC35Cの難点を挙げるとすれば、本体と交換針の相性の良し悪しが大きい事だろうか。交換針がブカブカで固定できないというケースが多い。
これについては構造さえ分かっていれば、あとは工具と手先の使い様でいくらでも調整が利くので、好事家からは一顧だにされない一方で、ある意味、針の方でも使い手を選ぶという事が言えるかも知れない。この辺りがいかにも業務用途向けのモデルらしい。

2025年7月23日水曜日

シュアー社の針と社外製互換針の仕様

昨年のこと。
それまで仕入れていたシュアーM44用の互換針が終売になった。新しいモデルに代替わりすると聞いて、昨今の物の値上がりという事もあるし、値上げの方便だろうとたかを括っていた。
値上げになって嬉しいということはないけれど、あの品質・内容の針が今後も手に入るのであれば構わないと。

しかし、切り替わった新しいモデルを見ると製品の仕様が変更されていた。テンションワイヤが省かれている。

シュアーの純正交換針は、ダンパーゴムとテンションワイヤで振動系を支持しているが、それがダンパーゴムだけで支持される構造へ代わったという事だ。

それがどういう事なのかを分かりやすく事細かに書き連ねるほどの見識を自分は持ち合わせていないので書きようもないが、記録も兼ね、参考としてシュアーのようなテンションワイヤを採用した針の構造について載せておく事にする。






2025年7月22日火曜日

社外製交換針のこと

 気になる針を見つけたので仕入れた。

シュアー・M77

1961年に発売されたモデルで、同社のステレオカートリッジの第2世代に当たる。先代の第1世代には1958年発売のM3DやM7Dが、後継の第3世代には1963年生まれのM44シリーズがある。

第1世代や第3世代と比べて影の薄い第2世代だが、その後のシュアーのカートリッジの基本構造が出揃った世代でもある。ボディは箱形の上っ張りに振動系格納部をおさめる構造となり、交換針はグリップと一体成形されるようになった。シュアーの針の特徴であるテンションワイヤはこの世代からダンパー後方に向かって張る構造へと変更されている。

第2世代では、M33とM77の2機種のステレオカートリッジが発売された。
カタログ上では、M33は“PROFESSIONAL”、M77は“CUSTOM”と銘打たれていたが、実際にはコンシューマ向けとして売れたのはM33の方であり、業務用途に多用されたのはM77だった。

カタログモデルであった期間の短さに加えて多くが業務用として物理的に消費された事もあって、M77の良品は少なく、まともな状態の純正交換針に至っては今となっては望むべくもない。
しかし、今回見つけた個体には社外製ながら良質な互換針が付属していた。しかもデッドストックの。それで一も二もなく仕入れた。

届いてすぐに交換針を確認。
間違いない、この針だ。


このメーカーのM77用交換針は今日まで1つの型番で販売されてきているが、針には旧タイプと、OEM元が代わって以降の新タイプの2種類が存在する。この針は旧タイプだ。

旧タイプの互換針が外観から内部に至るまで昔日のシュアー製純正針の仕様を忠実に模した造りになっているのに対して、新タイプでは各部の造りが純正針とは異なる仕様へと変わっている。

MM針の音の良し悪しは交換針の質が多くを握っている。カートリッジ本体は交換針の方だと言いたくなるほどだ。新タイプの互換針はレコード針としての品質は水準以上であるものの、シュアーの互換針として見た場合には残念ながら良品とは言い難い。新タイプの製造者の針は純正針とはかけ離れた音がするからだ。これについては他のモデルではあるけれど、当店で比較試聴できる。つまり、当店は過去にこの製造者のシュアー用互換針で痛い目に遭っているのだった。



往時のシュアーの音を聴けると見込んだM77が手元に届いたので、さっそくシェルに組み付けて試聴してみた。ところが、これがまともに鳴らない。


中高域がきついというか、歪んでいる。「サ行がきつい」と言われる類の音の出方だ。音場表現にも筒を通して聴いているような狭苦しさを感じる。M77については以前から“荒っぽく強烈な音”といった評を聞いていたが、今鳴っているのがその音だとしたら、これは強烈というよりは耳障りな音だ。

ちゃんと鳴らせていないのでは?
オーバーハングとアーム高を再確認してゼロバランスを取り直し、メーカーの製品規格表を見直して、指定の適正針圧1.5〜3グラムに従って2グラムを掛け直す・・・が、

「・・・待てよ、おかしいぞ。この針の針圧が1.5〜3グラムって事はないだろう」

針先に触れてみる。ガリッという硬い感触。M44の倍ほどもある太いカンチレバーの根元に巻かれた薄いダンパーゴムが見える。
こんなにガチガチの振動系が、3グラム弱の針圧でまともに鳴る筈がない。M77純正針の適正針圧は3〜7グラム。本来は5グラム前後の針圧で使うべきカートリッジだ。

もう一度、規格表を見る。適正針圧の項目にはたしかに“1.5-3g”とある。だが、その横には、“M33、M77、M99”などと併記されていた。つまり、この針は針圧が異なる複数のモデルの共用針だったのだ。

ここで新たな疑問が湧いてくる。
通常、針圧が異なるモデルをまたぐ共用針の場合には、各モデルの針圧を考慮した、純正針とは異なる独自の針圧が設定されるものでは?
しかしながら、規格表を見る限りこの互換針には最も針圧の軽いM33と同じ規格が採用されている。一方で当の針はというと、到底そのような針圧で鳴るとは思えない造りだ。

この旧タイプの針は、すでに製造終了になった物だ。
「それにしたって、ダンパーが硬化するほど古くはないだろうし・・・」


少し考えて、M77本来の針圧で鳴らしてみることにした。

適正針圧1.5〜3グラムの社外製互換針に、M77の適正針圧・3〜7グラムに従って5グラムを掛ける。同じシュアーのSC35CやオルトフォンのSPUよりもGEのバリレラよりも重い針圧だ。
盤面に針を置く。スピーカーからパシッと音がして、カンチレバーは5グラムの針圧にも沈み込む事なく平然とトレースし始めた。

これまでとは打って変わって、生々しく実在感のある音が出た。音場は開け、歪みっぽさもない。この音が“荒っぽく強烈な音” なのかは分からないが、素晴らしい音ではあると思う。
音と自分の間にある、これはあくまでも再生音ですよといった感じの“隔たり”のようなものが無い。現代とは在り方の異なる、昨今そうざらには出会えない昔日の高忠実度再生の音だ。


この旧タイプの互換針は、重針圧の規格に合わせて造られているのではないだろうか。

2025年5月26日月曜日

シュルツKSP-130Kの修理

 久しぶりにシュルツKSP-130Kの修理。


この個体は中高域に音割れが出ていたので、フレームからコーンアッセンブリーを外してボビンやギャップなど要所を清掃・調整して組み直した。

特徴的なスポンジエッジを採用したシュルツのKSP系ドライバーは、130も215もきわめて優秀なユニットだが、個体差が大きく、製造時期や生産単位ごとの造りの差に各部の経年変化や保管状況、使用環境といった要因も加わって昨今では不具合を生じる個体も出てきている。

ダンパーの芯出しをしたらエッジを張り、テスト信号を出音させながら微調整

この個体は前期のリアマウント仕様なので、エッジの外周にガスケットを貼る
分解時に剥がして痩せた厚みの分だけガスケットの下地紙を足す


最後にガスケットのフェルトを貼り戻して完成




次の個体は前枠裏面にガスケットの張られたフロントマウント用の後期型

不具合は、音割れに加えて音が出たり出なかったりというもの。確認してみると、ボイスコイル引き出し線が切れて錦糸線の断面が端子に触れた状態だった。同様の不具合は過去にも見ている。

製造時期に関わらず、シュルツのドライバーには引き出し線である錦糸線をほとんどたわませずに端子へハンダ付けしている個体が見受けられる。線がピンと張った状態に近いほど、再生時のコーン紙の振動による疲労は、硬く柔軟性の無いハンダ付け部付近に蓄積する。シュルツは柔軟なダンパーと柔らかいスポンジエッジによって高い自由度でコーンを振幅させる構造なので、錦糸線が切れるのも道理と言える。
切れた時点で錦糸線には長さの余裕が全く無いので、端子側から線を伸ばして端子寄りの中間点で接ぐ。錦糸線はたわませ加減にする。


無事に導通がとれた。あとは実際に音出ししながら良否を確認していく。


こうした修理や調整はユニットの音質の根本に関わる部分へ手を入れるものなので、今の自分に出来るのはモノラル一本ごとの修理だけ。ステレオペアとなるともう手が出せない。左右のドライバーの音を揃えるノウハウを持っていないためだ。


抜きん出た実力を活かすために使いこなしの求められるシュルツは、時として音楽を置き去りにした“オーディオ道”みたいな方向へ持ち主を引っ張っていく側面もあわせもっているので、そういう意味では少しばかり面倒な存在とも言えるし、また、修理する側から見れば、かなりの厄介者と言える。


2025年2月9日日曜日

店外環境でのM44-7SV試聴

 お客さま宅のシステムにて、突板カートリッジ・M44-7SVとノーマルのM44-7を比較試聴した。

プレーヤーはヤマハGT-750、アンプはパワーがTEACのAX-501でプリがQUAD 44、スピーカーはHARBETHのモニター20。

構成としては少し変則的だが、音質的に比較試聴しやすそうなものをお客さまの休眠機材の中から選んで即席でシステムを組み、試聴での音の基準とした。

ノーマルのM44-7と比べると、M44-7SVの方は音の立体感が増す。音場の中の音像やその位置関係が明確化し、実在感をともなって現れるようになる。また、音源中の暗騒音が低くなったように感じ、音の背景が澄む。

店で聴く以上に両者の音の違いが明確に出たので驚いたが、これは、今回試聴した環境が店よりもかなり広く天井高もあり、スピーカー後方に雪平鍋のような浅い凹凸のある壁板が張られたオーディオルームだったためだと思う。電源もクリーン電源だった。

M44-7SVは、音決めの段階では徹底的にリアリティを追求するというような事はせず、毎日聴く事を踏まえてごくわずかに角を丸めた音へとまとめたつもりだったが、今回の環境ではそれでもかなりリアルな音と感じたし、お客さまの感想も同様だった。

音の良し悪しは万別で聴き手の嗜好によって決まるものなので、この音を好まない方や相性の悪いシステムというのも当然ながらあると思う。聴き手の側へ実寸よりも大きな音像が迫り出すような出音や、「ウォール・オブ・サウンド」と呼ばれるようなひとかたまりになった音を好む向き*。また、特定の帯域が強調されたり限定された楽曲やジャンルに向けて構築されたような性格のシステムとは、このカートリッジは合わないかも知れない。ただそれも実際に組み合わせて鳴らしてみなければ分からないところだけれど。

*加えて、音像の周囲にエコー成分の太い輪郭線を伴うような、明確“でない”音像を好む向き。



2025年2月7日金曜日

出張

ご愛顧いただいているお客さまから電話。


「ベルトドライブ機の音を聴いてみたくて試しに買ってみたのが届いたんですが、使えるようにセットアップしてもらえませんか?」

  「何を買われたんですか?」

「リンのアクシスとトーレンスのTD150MkⅡです」


日程をうかがい、宿をとって出張。

お客さまのお宅へ伺うと、オーディオルームにイギリスから届いたという粗悪な段ボール箱が2つ並んで置かれていた。さっそく開けに掛かる。

  

  「ああ、裂けてしまった。海外の段ボールって、大体みんなこんなですよね。ヤワだし臭うし虫は湧くし、少しは日本の段ボールを見習って欲しいですね。でもこの人、梱包は丁寧ですよ」

「それは一度開けたのを私が包み直したんです」


そんな話をしながら箱を開けて緩衝材を取り除け、養生を外して床に置く。

どちらもグッと引き締まったシンプルなデザイン。思わず見入ってしまう。

手入れに取り掛かる。

アクシスはプラッター軸の油を足してカートリッジを取り付け、オーバーハングを合わせたら準備完了。ベルトの経年劣化以外には特に不具合は見当たらなかった。もっとも、そのベルトが要なのだけれど。これについては他のベルトドライブ機にも言える事だが、本当に信用できる互換品を探し当てて換えるほかない。

次いでTD150。リンの代名詞であるLP12のモデルになったと言われる製品。重厚で精密なプラッターに軽快なアームの対比が美しいデザインをいっそう魅力的に見せる。

プラッターやウエイトを外してカバーを被せたら、キャビネットごとひっくり返して電源トランスの結線を変更し、コンセントプラグを交換。内部の造りも素晴らしい。力の入れどころと手の抜き方の取捨選択が見事にバランスした品質からは、成熟したもの作りといった印象を受ける。

プラッターの軸に注油してカートリッジを交換。ベルトについてはアクシス同様。プラッターの品質と精度はアクシスよりも高い。ただ、重量が相当なものなのでベルトの寿命は短そうだ。

ヘッドシェルに付いていたカートリッジを交換して針圧を調整しようとしたら、ウエイトの動きが渋い。アームにフリクションを掛ける樹脂パーツが経年で変形しているらしい。近在のホームセンターから紙やすりを買ってきて削る。

ウエイトが滑らかに動いて固定ネジを締めたらピタリと留まるように按配して、さてあらためてと思ったら、今度はアームの動きがおかしい。ローリング方向のガタがある。調べてみると、水平軸が片方折れて無くなっていた。

初日の修理はここで終了。稼働中の他のプレーヤーの調整や修理をして、あとはまた明日となった。


2日目。
TD150のアームの水平軸は、回転軸の両側に掘られた凹みを左右から芯鉄で突く事で保持される単純な構造。芯鉄は芋ネジの先端に孔を穿って太い針を圧入したもので、これを締め過ぎず緩過ぎずのちょうど良いところを探して固定する。この個体では芯鉄の片側の先端が折れて無くなっていたが、ウエイトの動きが悪かった事が原因かもしれない。ゼロバランス調整時などに渋くなったウエイトを動かす事で細い芯鉄に力が集中して折れたのではないだろうか?

芯鉄は単体部品ではなく、折損しているのは圧入されていた先端だから、その部分を新たに作れば直せるはずだと踏んで、縫い針セットとダイヤやすり、それに包丁研ぎを買ってきた。

いちばん太い毛糸用の針の先端を工具で折り取ったら、あとはひたすら削って磨いてを繰り返して芯鉄を作る。太さ1ミリ・長さ2ミリほどなので、作業中に工具が滑って何度か床に落として探し回ったが、無事に出来あがって組み付けも問題なく、ガタも取れてアームは滑らかに動くようになった。

この時代の製品の懐の深さは、一般的な手まわり工具とユーザーレベルの工作技術でかなりの部分が修理・調整できるというところにあると思う。多くの人に分かりやすい仕立てで造りつつ、高い性能と長い寿命を製品に持たせているというのは、現代のハイエンド機とは全く異なるベクトルのすごさを感じるところだ。


最終日は組み上がりを機材につないで音出し。試聴しながらカートリッジの選定と各部の手直し。

じっと聴いていたお客さま。ウンとひとつうなづくと「・・・よし!OKです」


片方は思わぬ不具合を抱えていたものの、2台のベルトドライブ機は揃って新しい主のもとで現役復帰した。


2025年1月16日木曜日

バリレラカートリッジの組み付け

馴染みのお客さまから、バリレラカートリッジをユニバーサル型のヘッドシェルに組み付けて欲しいとのご用命。自分はバリレラの経験値は皆無で、組んでもうまく音をまとめられるか分からないので・・・と断ったものの、それでも良いからという事でお預りした。

バリレラ。聴いた事はあるものの仕立てた事は無いので、仕組みを見て、自分が針になったつもりで組んでみる事にする。ノウハウについてあれこれ調べてみたところで、自分の経験として身になっていない情報を小手先でつぎはぎしても良い結果は獲られないだろうし。

針の周辺を観察してみる。
ねじり棒バネのような真鍮製のカンチレバーにスタイラスチップが植わっている。LP用の針は1ミルにしてはチップが小さく鋭く見えるから0.7ミルだろう。カンチレバーの上部にはダンパーゴムを介してこれも真鍮製の板があり、同じ形の鉄色の平板が重なるように接している。この部分は磁石ではないので、磁石はコイルとともにボディ内にある事になる。
針を再生時の位置に格納させた状態では、カンチレバーと平板の両脇に垂直尾翼のようなものが立っているが、これがヨークだろうか。とすると、ここを磁束が横切っていて、鉄色の平板へ伝わった針先の振動が磁束を変化させ発電する仕組みらしい。とてもシンプル。MI型のご先祖といったところか。

これは後日扱った別の個体。青いダンパーゴムは仮付けのもの

























組み付けに掛かる。
自分がこの構造の針ならどう鳴らして欲しいか考えながらシェルを選んで加工する。

ヘッドシェルは古いグレース製を使用


 






























カートリッジの天面はベーク板で、ボディシェルの爪を折り込んで四隅で留めてある。爪の部分が飛び出していて、そのまま組み付けるとヘッドシェルとは点接触になるため、天面の形状に合わせて接触部を整える。適切に固定する事はもちろんだが、過度に制振して響きを殺さないようにする。こういう場合は鉛のシートやゴム、樹脂製のスペーサを咬ませるのだと思うが、自分が針なら・・・という事で木を使った。

































リード線には時代や国を合わせたものを選んだ。線径はふだん使っているものよりもやや太め。接点同士が近いので、以前見たリアエンジン車の排気管を真似て引き回した。


































完成

























試聴。
最初の音出しから素晴らしい音が聴けた。バリレラを聴くたびに抱いた「ああ、バリレラの音だ」というやや苦手意識の交じった感想は出て来ない。

これまでに自分が聴いたバリレラの音は、どれも中高域の強く張った音だった。生き生きとしている一方で眉間を棒で突っつかれるような苛烈さもあり、正直なところ日がな一日聴いていたいと思う音ではなかった。

今回の個体は明澄で力感がありながら一日中聴ける音で、実際に試聴で音出しを始めてからそのまま一日中聴いて、翌日も終日聴いていた。
特筆すべきは音の実在感で、音像にはいかにも再生音といった感じの輪郭線のような曖昧な領域が無い。鳴らしているのは無論モノラル盤なのだけれど、音場の自然な奥行き・広がりは、モノラルをうまく鳴らせたときにステレオかモノラルかの境界が薄れて生の音を聴いているように感じられる特有の在り様。


どうやら今回の針は当たりの個体(少くとも自分にとっては)だったらしい。おかげで現代とは異なるモノラル時代の高忠実度再生を体感できたし、ビギナーズラックも獲られた。ただ、裏を返せば今までモノラルではこの水準の音を出せていなかったという事でもあるので、心持ちとしてはやや複雑だ。

バリレラは音の良し悪しの個体差が大きいという話は聞いていたが、今回、構造を見て納得が行った。経年による劣化や変質を逃れ得ないダンパーゴムが音の要になっている。
今後、今回のような音の個体とふたたび出会えるだろうか?

2025年1月14日火曜日

突板シュアーの再製作

数年前に作った突板仕上げのシュアーを、素材や工程を一新した第2版として再製作した。

このカスタマイズは、Vintage JoinのオリジナルMMカートリッジを真似て作ったものが元となっている。自製のニセモノをノーマルの針と聴き比べて、カートリッジに木を組み合わせることで音の階調が変化するという実感を得、それなら自分はメインで使っているシュアーを突板で仕立ててみようと思い立ったのだった。


初版・M44-7

初版第2刷・M75B

初版・SC35C

当時、試行する中で分かったのは、響きの向上と響きの減衰がトレードオフの関係にあるということ。手を加える事で響きの質が高められる一方、響きの量は目減りしていく。考えてみれば物理的にごく当たり前の事だが、響きをコントロールしようとする中で質と量の違いについては混同してしまいがちだった。おかげで見た目はそれらしく音のひどいシロモノを幾つもこしらえる羽目になった。

針がレコードの盤面を引っ掻いて音を取り込む過程で、いわゆる「針鳴き」として散っていく響きをカートリッジ本体部で受け止め再生音に活かす。それに好適な素材は木である。・・・このコンセプトについては当初から変わらないが、先に書いた響きの相関関係が、カートリッジのような小さなものではことさらシビアに現れると分かってからは、いかに響きを目減りさせずに仕立てるかが主課題となった。
実際のところ答えはある程度まで出ていたが、それを形にするには工程が煩雑過ぎた。既にそれなりに納得のいく音で初版を仕上げられていた事も手を止めさせた。

ところが先般、微弱な振動を相手にした時には、普段は意識しないようなごく些細な事が音に大きく影響したり、常識的にこうと思っていることがまったく逆に作用する場合があるという事を痛感する出来事に遭遇して、「それなら、やっぱり針にもまだかなりの伸び代が・・・」と思い直し、3年ぶりに第2版を作ることにした。


改訂版の製作にあたっては、これまで作業性の面から妥協していた部分をすべて理想的と思える方法で通した。

結果的に第2版は、見た目こそ初版と変わらないものの、音はまったくの別ものに仕上がった。当初は残しておくつもりだった初版は、聴き比べてみて即座に解体した。



仮称・M44G-SV(=Sliced Veneer)

























仮称・M44-7SV

























M44G、M44-7ユーザーには特に聴いていただきたい。


追記: このカスタマイズは可逆性の改変であり、いずれのカートリッジもオリジナル状態へ復帰可能となっている。


2024年12月25日水曜日

PP400改 雑感・備忘

改造後は馴らしを兼ねて、毎日終日PP400改でレコードを鳴らしている。
純正時の音の粗さや音源を選り好みする性向はうまく治められ、持ち味の闊達さを削ぐことなく音の質感を上げることができた。一日中聴ける音になったし、距離感の再現性とは別のベクトルで音楽が近しく感じられ聴いていて愉しい。馴らされたのは耳の方ということは幾ばくかは言えるのかも知れないけれど、少くとも聴いていてなんとなくうるさいなと感じる音は大抵の場合だれにとってもうるさいものだと思う。

PP400の周波数特性を測った人の挙げているデータを見ると、1kHz/0.5V出力時を基準として低域側はダラ下がりで50Hzで-2dB、20Hzで -4dB。高域側はわずかに持ち上がって10kHz・20kHzでいずれも+0.5dB。この特性は複数の人が挙げているデータで共通しているから信用できる。
今回の改造では定数は変更していないので、この特性は改造後も変わらないはずだけれど、鳴り方は大きく変わった。コンデンサー換装後のチューニングの方が変化の要因として大きな割合を占めているのかも知れないが*。ただ、特性上はハイ上がりの音を「厚みのある太い音です」と言ったところで伝わるものではないだろうし、自分でもどうしてこういう風に聴こえるのか分からないのだから、結局のところ店頭で実際に聴いていただくほかない。

改造するにあたってPP400の最大の利点は安物であること。ボトムラインの製品だからこそのシンプルな回路構成は、構成部材の少さ・単純さ故に少しの改変で大きな効果が期待できるからだ。もっともそれは悪い方への変化についても同じ事が言えるのだけれど。

*そうであるとしたら、コンデンサー換装せずにチューニングのみでそれなりに好い音まで持っていける可能性があるので、次回からはチューニング→パーツ換装の工程で作業し、検証してみたい。


1/10追記
電源ラインのコンデンサを換装。ギリギリの耐圧のものが使われている点が気になってニチコン製に変更。容量は純正のまま。これで旧型のトランス式純正電源も安心して使える(ただし、オペアンプの規格から、純正品以外を使う場合は無負荷時の出力電圧が18V以下になるものを選ぶよう留意)。

チューニングを手直し。





2024年12月22日日曜日

フォノイコ試行

 届いたベリンガーPP400を開封。

ロゴマークが違っている。リアルな耳の絵だったロゴが、Cを反転させたような記号的なものに代わっている。お客さんのPP400は旧ロゴの頃の個体ということか。

ケースを開けて中身を見てみる。パーツや構成はお客さんのPP400と同じだが、基板が変更されたらしい。お客さんのはベークライト製だったのか黄色い基板だったが、これは緑のガラスエポキシ基板だ。

電源のACアダプターはトランス式からスイッチング式に変更されている。ここがいちばん大きな変更点だ。音に強く影響する部分だけに気になる。


試聴。まずは純正状態で。

お客さんの旧いPP400と比べると音の質感はだいぶ落ちる。ガチャついた粗い音。初めに聴いたのがこの音だったら間違いなく素通りしていた。「荒っぽいけど、でも・・・」と思わせるものがない。この粗雑な感じはACアダプターがスイッチング式に代わったせいだろうか。


次いで、ACアダプターをトランス式に換えて試聴。アダプターはアイコー電子のものを使用。

PP400の電源はDC12V。トランス式だった旧タイプの純正アダプターは12V・150mAだったが、アイコー電子製の定格は12V・1200mA。スイッチング式と違って安定化されていないから無負荷時は18V以上出ている。使用環境ではPP400のオペアンプや電源部コンデンサーの定格を超えてしまうので、無負荷時の電圧でも定格に収まるようやや電圧の低いモデルを使う。また、電源ジャックの規格が異なるので変換プラグを併用する。

やや粗さが取れて良くなった。マシになったと言うべきかも知れない。他にお客さんのPP400と違う点は基板しかないが、替えられないのでこの音がスタート地点という事になる。


音の質感を上げるべく手を加える。

交換・試聴を繰り返して按配を診ながら一箇所ずつコンデンサーを付け替えていく。定数変更は一切しない。

それらしい鳴り方になった。とはいえ音源の選り好みが著しいところは、まだ普段使いの実用性に影響するレベルで残っている。もうひと息ふた息というところ。

いつもの原始的な調整方法を試みたところ大幅に良くなったので、かねて気になっていたやり方も併せてさらに試行していく。

二日掛かってしまったが、これならという音になった。


本品は店頭にてご試聴いただけます。


*追記
電源ラインのコンデンサを換装。ギリギリの耐圧のものが使われている点が気になってニチコン製に変更。容量は純正のまま。これで旧型のトランス式純正電源も安心して使える(ただし、オペアンプの規格から、純正品以外を使う場合は無負荷時の出力電圧が18V以下になるものを選ぶよう留意)。

チューニングを手直し。



2024年12月20日金曜日

フォノイコ試聴

 先日、普及クラスのフォノ・イコライザーを比較試聴した。店で常用しているオーディオテクニカのローエンド機、AT-PEQ3を聴かれたお客さんが「こんなのどうかな」とお持ちになったので、じゃあ聴き比べてみましょうという次第。

お客さんのお持ちになったのは、ヤマハのHA-5と、ベリンガーのPP400。

「どっちも中古で買ったんだけど、ベリンガーは電源アダプターが欠品してて、純正品を探して買ったらアダプターや本体より送料が高かったよ(笑)。中もスカスカで、部品なんて数えるくらいしか付いてなかったし」

  「音はどうでした?」

「どっちも良かったよ。でも、私の耳ではねえ・・・ベリンガーの方が・・・(笑)」
 
  「へえ、そう聞くと俄然興味が湧いて来ますね」

さっそく試聴。まずはベリンガーPP400。

  「元気な音。ちょっと角張っているところもありますけど、楽しい音ですね」

「古い音源とよく合うんだよね」

次いでヤマハHA-5。

  「今度は上品な音。往年の“ナチュラルサウンド”の製品なのでクリアでクールな音を予想していましたけど、意外にも角のとれた柔らかな音。いかにもオーディオのイイ音という感じですね」

「聴いてると、これはこれで良いのかなと思えてくるけどね」

  「ヴィンテージ・ジョインの喜代門さんがHA-5のチューニングをされていましたけど、納得できますね。ここまで良いだけに、もうひと息のお仕着せ的な部分を良くしたくなるというか。じゃあ、うちのオーディオテクニカも改めて・・・」


即席の試聴会が終わってから、ベリンガーの音が気になり始めた。低域が削げて粗さのある音。いつもなら即座に跨いで通り過ぎるたぐいの音のはずなのに、妙に引っ掛かる。

「あの粗っぽい音で、古いモノラル盤がやけに活き活き鳴っていたな・・・あのバランスのまま、音の質感だけ良く出来たらどうなんだろう?」


さっそく試してみることにした。




 

2024年11月14日木曜日

音の嗜好と機器の相性

 ドイツ製スピーカーをお使いのお客さまから、ステレオアンプのご用命。

スピーカーは、当店にも在庫のある西独製のブックシェルフ型で聴かれており、アンプについてもすでに良いものをお使いだったのですが、入力が1系統のみという点と、ボリュームを開けた際にやや音がきつくなるという所から代替わりを検討されているとのこと。

「もっと厚みのある音で聴ければと思います」

「幸い同じスピーカーがうちにもありますから、在庫のアンプで相性の良いものを見繕って、良いものがあれば後ほどご案内しますね」

そんなやりとりをして電話を切ったものの、

「あのアンプできつい音が出るってのは一体・・・?」

お使いのアンプは小型の小出力アンプですが、音のよい製品です。ここの製品は何よりきつい音を嫌った音づくりを旨としているはずですが、なぜ?

しばらく考えて、思い当たりました。

このスピーカーはトランジスタアンプが一般的になって以降の製品です。採用されているドライバーも、小さな入力で大きな音を出すことを旨とした古典的な構造から、昔時の特質を残しつつも振動系の質量が増して耐入力値が上がり、低能率化の進んだ構造へと変わっています。こうした時期のドライバーにとって〜1Wクラスのアンプは、いくら上質な音づくりの製品であってもさすがに駆動力が足りないのでは?

ここまでが頭の中でのシミュレーションで、あとは実地に色々な組み合わせで鳴らしてみてどうか。結局のところこれに尽きます。


2024年10月31日木曜日

営業時間変更のお知らせ

 誠に勝手ながら、都合により11月1日(金)より当面の間、営業時間を10:00〜17:00へ変更いたします。あしからずご了承ください。

2024年8月9日金曜日

続・GOODMANS MAXIMの修理

 先回のツイーター修理後、無事に鳴るようになったマキシムでしたが、しばらく鳴らしているうちにピアノのアタックなどの強い高音に付帯音が出始めました。音の出どころは低域ユニット。どうやらボイスコイル擦れのようです。

ツイーターの次はウーハー。先回はネットワークとエンクロージャーも要修理だったので、結局のところ全ての箇所が不具合を抱えていた事になります。


ふたたび分解。


エッジの周囲ごとバッフルに張り付いている低域ユニットの取り外しは非常に厄介。巨大な磁石を保持した状態で、取り付け面に溶剤を染み込ませながら少しずつ剥がして行きます。ただし、エッジのダンプ剤には溶剤を付けないように。集中力と腕の持久力が要ります。

ユニットが外れたら、フレームからコーンアッセンブリーを外します。ここもエッジやダンパーを傷めないように溶剤で根気強く剥がして行きます。

マキシムのエッジはラバーエッジではなく、ゴム系のダンプ剤を分厚く塗った布エッジ


フレームバスケット部
あちこちに重年の腐蝕が

腐蝕を落として、バスケット内とギャップ部を清掃


大振幅型なので、ボイスコイルもボビンも口径に対して非常に長い

フレームの整備が済んだら、コーンアッセンブリーのメンテナンス。引出し線の付け根やコイルを点検してニスを掛け直します。コイルの浮きや剥離による異音を防ぐためで、同様にダンパーやセンターキャップの接着部も見て行きます。

フレームとコーンアッセンブリーがそれぞれ仕上がったら、組み付けて芯出し。
今回はセンターキャップを外せなかったため、通常の調整方法は使えず、また、エッジやダンパーの性格もあって、芯出し作業は非常に難儀でした。

芯出しに丸々一日を費やしてようやく組み上がり

先回の修理と合わせてかなりの手間と時間を掛ける結果となりましたが、この古い小型スピーカーの音には、それだけの値打ちは十二分にあると思います。


2024年7月27日土曜日

GOODMANS MAXIMの修理

 久々にグッドマンのマキシムが。今回もモノラル1本での入荷です。

英グッドマンのマキシムは、ブックシェルフ型スピーカーの始祖と言われるモデルです。8cmに満たない小口径の低域ユニットを巨大な磁石で駆動させる力技の機構は一見するとバランスを逸した極端な性格の音を想像させますが、実際の音は闊達で量感に富む素晴らしいものです。一方で、年代の古さと造りの面からコンディションに難のある個体が非常に多く、高額な流通価格と相まって仕入れには難儀するスピーカーでもあります。

今回の個体も動作確認してみたところ、高域側のユニットがまったく鳴っていませんでした。

開けてみると、ネットワーク部のコンデンサが駄目になっていました。

ひび割れた高域用のコンデンサ(2μF×2)。画像を撮った後で固定テープを剥ぐと、砕けてバラバラになってしまいました。

交換するパーツは、同じものが無ければ同国製のもので性格や年代の近いものに、それも無ければ国産の汎用品へ替えます。パーツの用い方は修理者によって様々なやり方やポリシーがあると思いますが、当店の場合は高級なオーディオ専用コンデンサなどは避け、なるべく平凡なものを使うようにしています。高音質を謳う高級パーツにはそれ自体が強い個性を持っている事も少くないためです。

ネットワーク部のコンデンサについては同じオイルコンデンサが入手できなかったため、国産の電解コンデンサへ換装しました。オーディオ専用のフィルムコンデンサよりも、一般的な電解コンデンサで銅足の良質なものの方が好適と判断したためです。

コンデンサ交換後、仮組みで鳴らしてみますが、相変わらず高域ドライバーは鳴りません。SP端子でチェックした際は高域ユニットからチリチリ音が聴こえたのにと思ってユニット単体で再度チェックしてみると、導通無し。どうやら低域ユニットからのノイズを高域側の音と勘違いしていたようです。

コイルの断線となるとどうしようも無いなと諦めかけたものの、「端子付近での断線なら、つなぎ直せばあるいは・・・」と思い直し、高域ユニットの修理を試みることに。


内部の端子部を見ると、

引出し線はどちらもしっかりと端子に付いていました。つまり、コイルはボイスコイルボビン側のどこかで切れている事になります。

ポールピースが錆びてボビンと擦れている状態なので、腐蝕による断線かも知れません。いずれにしても望みは絶たれたと諦めて、後学のために分解して内部の造りを観てみることにしました。
フレームは黒いプラスチック製で磁石や端子と一体成形されています。
振動系は、一般的なフルレンジドライバと同じギャザーダンパーでストロークする構造。振動板とダンパーの間には吸音材が詰めてあり、エッジは伸縮性の無いビニール製。

ダンパーを剥がしてコイルを見てみると、思いのほか綺麗な状態。しばらく見ていると、断線箇所が見つかりました。同時に「直せるかも」と再び希望が。

ボビンからボイスコイルを1周分だけほぐして引き直し線を抜き、その孔にほぐしたコイルを通して新たな引出し線に。コイル全体にニスを掛けてほぐれないように固めたら、ポールピースの錆びを取って、ギャップ溝を綺麗にさらい、芯出ししつつ組み直し。

仮組みで鳴らしてみると、無事に出音しました。


一時は部品取りにするしかないかと思いましたが、どうにか復活。ただ、まだ低域ユニットや箱の修理が残っているので、気は抜けませんが。