2025年7月22日火曜日

社外製交換針のこと

 気になる針を見つけたので仕入れた。

シュアー・M77

1961年に発売されたモデルで、同社のステレオカートリッジの第2世代に当たる。先代の第1世代には1958年発売のM3DやM7Dが、後継の第3世代には1963年生まれのM44シリーズがある。

第1世代や第3世代と比べて影の薄い第2世代だが、その後のシュアーのカートリッジの基本構造が出揃った世代でもある。ボディは箱形の上っ張りに振動系格納部をおさめる構造となり、交換針はグリップと一体成形されるようになった。シュアーの針の特徴であるテンションワイヤはこの世代からダンパー後方に向かって張る構造へと変更されている。

第2世代では、M33とM77の2機種のステレオカートリッジが発売された。
カタログ上では、M33は“PROFESSIONAL”、M77は“CUSTOM”と銘打たれていたが、実際にはコンシューマ向けとして売れたのはM33の方であり、業務用途に多用されたのはM77だった。

カタログモデルであった期間の短さに加えて多くが業務用として物理的に消費された事もあって、M77の良品は少なく、まともな状態の純正交換針に至っては今となっては望むべくもない。
しかし、今回見つけた個体には社外製ながら良質な互換針が付属していた。しかもデッドストックの。それで一も二もなく仕入れた。

届いてすぐに交換針を確認。
間違いない、この針だ。


このメーカーのM77用交換針は今日まで1つの型番で販売されてきているが、針には旧タイプと、OEM元が代わって以降の新タイプの2種類が存在する。この針は旧タイプだ。

旧タイプの互換針が外観から内部に至るまで昔日のシュアー製純正針の仕様を忠実に模した造りになっているのに対して、新タイプでは各部の造りが純正針とは異なる仕様へと変わっている。

MM針の音の良し悪しは交換針の質が多くを握っている。カートリッジ本体は交換針の方だと言いたくなるほどだ。新タイプの互換針はレコード針としての品質は水準以上であるものの、シュアーの互換針として見た場合には残念ながら良品とは言い難い。新タイプの製造者の針は純正針とはかけ離れた音がするからだ。これについては他のモデルではあるけれど、当店で比較試聴できる。つまり、当店は過去にこの製造者のシュアー用互換針で痛い目に遭っているのだった。



往時のシュアーの音を聴けると見込んだM77が手元に届いたので、さっそくシェルに組み付けて試聴してみた。ところが、これがまともに鳴らない。


中高域がきついというか、歪んでいる。「サ行がきつい」と言われる類の音の出方だ。音場表現にも筒を通して聴いているような狭苦しさを感じる。M77については以前から“荒っぽく強烈な音”といった評を聞いていたが、今鳴っているのがその音だとしたら、これは強烈というよりは耳障りな音だ。

ちゃんと鳴らせていないのでは?
オーバーハングとアーム高を再確認してゼロバランスを取り直し、メーカーの製品規格表を見直して、指定の適正針圧1.5〜3グラムに従って2グラムを掛け直す・・・が、

「・・・待てよ、おかしいぞ。この針の針圧が1.5〜3グラムって事はないだろう」

針先に触れてみる。ガリッという硬い感触。M44の倍ほどもある太いカンチレバーの根元に巻かれた薄いダンパーゴムが見える。差し込み部後端に留められているテンションワイヤも、見慣れた髪の毛ほどのものとは違ってちょっとした針金といった態だ。
こんなにガチガチの振動系が3グラム弱の針圧でまともに鳴る筈がない。M77純正針の適正針圧は3〜7グラム。本来は5グラム前後の針圧で使うべきカートリッジだ。

もう一度、規格表を見る。適正針圧の項目にはたしかに“1.5-3g”とある。だが、その横には、“M33、M77、M99”などと併記されていた。つまり、この針は針圧が異なる複数のモデルの共用針だったのだ。

ここで新たな疑問が湧いてくる。
通常、針圧が異なるモデルをまたぐ共用針の場合には、各モデルの針圧を考慮した、純正針とは異なる独自の針圧が設定されるものでは?
しかしながら、規格表を見る限りこの互換針には最も針圧の軽いM33と同じ規格が採用されている。一方で当の針はというと、到底そのような針圧で鳴るとは思えない造りだ。

この旧タイプの針は、すでに製造終了になった物だ。
「それにしたって、ダンパーが硬化するほど古くはないだろうし・・・」


少し考えて、M77本来の針圧で鳴らしてみることにした。

適正針圧1.5〜3グラムの社外製互換針に、M77の適正針圧・3〜7グラムに従って5グラムを掛ける。同じシュアーのSC35CやオルトフォンのSPUよりもGEのバリレラよりも重い針圧だ。
盤面に針を置く。スピーカーからパシッと音がして、カンチレバーは5グラムの針圧にも沈み込む事なく平然とトレースし始めた。

これまでとは打って変わって、生々しく実在感のある音が出た。音場は開け、歪みっぽさもない。この音が“荒っぽく強烈な音” なのかは分からないが、素晴らしい音ではあると思う。
音と自分の間にある、これはあくまでも再生音ですよといった感じの“隔たり”のようなものが無い。現代とは在り方の異なる、昨今そうざらには出会えない昔日の高忠実度再生の音だ。


この旧タイプの互換針は、重針圧の規格に合わせて造られているのではないだろうか。