2026年2月20日金曜日

カートリッジとリード線

 馴染みのお客さまが針を持って来られた。

「どうも音がきつくて。リード線の交換で音良くならないかなあと」

出されたのを見ると、オーディオテクニカのVM型。

 「これ、テクニカの現行の針ですよね」

「そう。安かったから買ってみたんだけど・・・あんまり良くないやつですか?」

 「いえ。テクニカのエントリークラスは普段使いの音として練られていますから、むしろ安い製品は聴きやすい音に出来てるはずなんですけど、きつい・・・?ちょっと聴いてみても良いですか?」

店のプレーヤーで聴いてみると、たしかに中高域に険があって耳やかましくて聴いていられない。

 「ひどい音ですね。おかしいな、テクニカのエントリークラスがこんな音のはずは・・・」


仕立てを見てみる。ヘッドシェルが明らかに古い。70年代のものだろうか。当然リード線も同じ頃のものだろう。

 「まずはリード線を替えてみましょう。こんな線がついてますし、現状からは良くはなると思いますけど、でも、この音ですからどこまでマシになるか・・・ともかく、あとは替えて聴いてみてから考えましょう」

リード線は今回も米国の“謎エナメル”を使うことに。


線を交換してさっそく試聴。


交換前とはまるで別ものの音が出た。オーディオテクニカのエントリークラスらしい安定感のある音。お客さまは驚いた様子だったが、自分はもっと驚いた。それほど最初の音はひどかったのだ。


数日後、このお客さまが今度はオルトフォンを持って来られた。

「これもリード線で音が良くなるかと思って」

 「これも音、良くないんですか?」

「いや、こっちはべつに悪くはないんだけど、こないだのを聴いたらこれももっと良くなるかなと」

 「どんな針でも必ず良くなるという訳でもないんですよ。最近の針はヴィンテージの線にすると逆にレンジが狭く感じたりする事があって、けっこう相性があるんです。まずはどんな感じか聴かせてください」

試聴してみると音が妙に筒っぽい。この音には聴き憶えがある。昨年の夏頃、ヘッドシェルにオマケで付いてくるような塩ビ線のリードを比較試聴した際に、古い線材で聴いた音だ。リード線を見ると、先回とは違ってチップは金めっきではあるものの、線材はやはり古い塩ビ線だった。はんだ付け部分の芯線には緑青が出ている。


 「古い塩ビ線で芯線に腐蝕の出ているものは、聴いていてなんとなく窮屈な感じの鳴り方になるんです。芯線が粉っぽくなっていたり緑青が出たりしている場合は、音の取水口としては詰まりかけみたいな状態なのかも知れませんね。試しに同じ塩ビ線のリードで新しいものに替えて聴いてみますか?」


リード線を交換して試聴。

「ぜんぜん違う・・・」
 
 「針を付け換えると、シェルの接点のちょっとした汚れで片側音が出ない時とかありますよね。針でつくられる電気信号はそれくらい微弱でちょっとした事で影響を受けますから、リード線の腐蝕も、僅かでも何かしら音に影響するという事ですね。今のこの音がこの針本来の音という事ですが、どうしますか?ここから謎エナメルに替えますか?」
 
「いや、この音でぜんぜん文句なし(笑)」

 「このバランスだとヴィンテージ要素は要らないですよね。この針にはこういう普通の線が良いと思います」



この度の2件で、塩ビ被覆のリード線が劣化などの要因で芯線に腐蝕を生じた場合、それが軽微であっても再生音には聴感上判るレベルで影響の出る事が分かった。


2026年2月1日日曜日

Victor SP-FS1当店カスタム品・第2版

 90年代のビクター製ミニコンポ、FS-1のスピーカーです。

ヨーロピアンチェリーの無垢材を使用した贅沢なエンクロージャーが特長のスピーカーです。置き場所を選ばない小ぶりでシンプルなデザインも魅力的です。一方で、肝心の音については私感ではあまり良い音ではないと思っています。
理由は再生帯域を欲張ったような音にあります。低域に不自然な付帯音があり、高域には険を感じます。コンポなので本体部とトータルでバランスする音づくりが為されているからでしょうが、単体のスピーカーとして聴くと、全帯域を通したまとまりを欠く音と感じます。

素材やデザインが素晴らしいだけにこの音はあまりにも惜しい。そこで、当店なりに本品をチューニングしてみました。


チューニングの内容は、要所を整えて音全体をまとめていくというもの。あくまでもSP-FS1を最良のバランスで鳴らす事を狙った処置であり、スピーカーユニットの載せ替えやエンクロージャーの加工といった改造は施していません。

このチューニングは複数のお客さまからご試聴いただき、感想を聞きつつ細部を煮詰め現在の仕様に到ったもので、外観はそのままでありながらノーマル状態とは大きく異なる音に仕上がっています。そのため、殊にノーマルの音を聴かれている方からは驚かれますが、それは、高低両端へ欲張った再生帯域を無理なく鳴る範囲へとあえて狭めた事で、逆に聴感上の音場や音像のリアリティが増したためだと思います。

店頭にてご試聴いただけますので、ぜひお試しください。

サイズ:W120・H158・D180mm

本品は中古品のため、外観には使用に伴う傷があります。


・Victor SP-FS1当店カスタム品・第2版 ステレオペア・・・・・22,000円(税込み)


2025年12月23日火曜日

針先の観察

思いきり近寄ってレコード針を写してみた。
撮影倍率はいずれも同じに揃えてある。

DENON DL-303
0.1×0.05mm角無垢ダイヤ特殊楕円針
カンチレバーはテーパー形のアルミ製
適正針圧:1~1.4g


DENON DL-207
0.14×0.07mm角無垢ダイヤ特殊楕円針
カンチレバーはボロン製
適正針圧:1.2~1.6g


SHURE M25C
0.7mil(0.0177mm)接合ダイヤ円錐針
適正針圧:1.5~3g


SHURE M77
0.7mil(0.0177mm)接合ダイヤ円錐針
適正針圧:3~7g



針先の大きさやカンチレバーの太さには随分な差があるけれど、すべてステレオ針で、針先が掻いて音を拾うのは同じレコード盤に刻まれた同じ幅・同じ深さの溝だ。



2025年12月20日土曜日

安物シェルの実力

アイワのヘッドシェルを何の気なしにいじってみたら、思いがけず良い按配の音にまとまった。
 

見たところ、このシェルは同社のプレーヤーに付いていたものか、あるいはカートリッジが組み付けられた状態で売られていたもののようだ。

オーディオ趣味向け商品のヒエラルキーの裾野に居るような製品だが、端子はニッケルめっきではなく金めっき仕上げで、天面には裏打ちもされている。安物ではあってもきちんと造られている。簡潔な佇まいも良い。

薄手のアルミプレス製ながら裏打ちされているせいで適度な重みがある。この手のシェルは大抵は肉抜き加工されていてスカスカに軽いものだけど。
手の上で転がして重さを確認しているうちに、囲い形状でこの感じなら2.5gくらいまでの針圧のカートリッジと組み合わせたら良く鳴りそうだぞと思いついて、少し手を入れてからシュアーのM75を組み付けてみた。

応計。組み合わせの妙と言うべきか、労せずして良い音が出た。
当店で扱っている国産のM75用互換針はシュアー純正針とは明らかにキャラクターの異なる締まった音がするけれど、今回の組み合わせでは純正針寄りの音になった。

2025年12月6日土曜日

謎エナメル線のシェルリード


面白い線材が入荷したのでシェルリード線に仕立ててみました。

この線はアメリカの古いエナメル銅単線です。1920年代の米国製とまでしか判らないメーカー不詳の線ながら、太い出音が特長で、音の細い針を好い按配にしつけ直してくれます。

お手持ちのカートリッジで、端正だけれども少し生真面目過ぎたり、細身で神経質な音の針にはお試しいただきたい線材です。もちろん音の太い針とも好相性です。


・謎エナメル線のシェルリード・・・・・4000円(税込み)



・製品についての注意事項・

*本品は製造から長い年数を経た古線材です。きつい屈曲や繰り返しの曲げ伸ばしといった線材にとってダメージとなり得る取り扱いは避けてお使いください。

*交換時の断線や、交換作業に伴うカートリッジの破損等が発生した場合、当店は一切その責を負いません。ご購入はこの点をご了承いただいた場合のみ承ります。



2025年12月1日月曜日

腰高な音を良い感じに

 テクニクスのMMカートリッジを持ってお客さまがご来店。

「ブログ観たんですけど、これのリード線を換えて欲しいなと思って」

 「ああ、この針。以前お話をうかがってどんな音か気になっていたんです」

「ちょっと聴いてみてもらえますか?」

さっそく試聴してみる。

 「だいぶ腰高な鳴り方ですね。純正針じゃなくて互換針だから、針のキャラクターもあるんでしょうけど」

「リード線の交換でバランスの良い音になりますか?」

 「試してみないと分かりませんけど、今のこの音よりは良い感じにできると思います。こういう音の針にはおすすめの線があるんです。まさに昨日のブログに書いたエナメル線で、どこの線か分からないんですけど、音の細い針にえらい効くんですよ。試してみますか?」

お客さんのゴーサインが出て、さっそく交換。

1920年代米国製、メーカー不詳のエナメル線

 「さっそく聴いてみましょう。アンプのボリュームはさっきのままです」

交換前に試聴した曲を聴き返す。

「・・・ぜんぜん違いますね。リード線でここまで変わるんですね」

 「中高域のキャラクターはあんまり変わらないですけど、低域側がぐっと出るようになって聴きやすくなりましたね。あとはご自宅の環境でうまく鳴るかどうかですね」


帰宅後、お客さまから良い音で鳴っていますとメールが。よかった。

今回もこのエナメル線が良い働きをしてくれた。仕入れの際にはシェルリードとして使うことは全く想定していなかった線材なのだけれど。


2025年11月29日土曜日

AT10Gを組む


入荷品と一緒に入ってきたオーディオテクニカのAT10Gを仕立てた。

この針はVM型カートリッジのエントリークラスの製品として長く売られていたモデルだが、とにかく愛されない不憫な存在で、大方のオーディオ愛好家からは見向きもされない。音は悪くないので、見た目の素っ気なさが不人気の主たる要因だろうと個人的には思っている。デザインにもカラーリングにもおよそ質感と呼べるような色気はそなわっていないから、愛着や所有欲はどこにも引っ掛からずに滑り落ちて行くのだろう。

AT10Gにはデザインとは別に文句をつけたいところがある。販売時に組み合わされている純正シェルがこの針の性格と合っていない点だ。
アルミダイキャスト製の純正シェルは高品質ではあるけれど、AT10Gの振動系には重過ぎて純正の仕様で鳴らしていると盤によってはアームが大きく揺さぶられて音揺れしてしまうのだ。この針にはもう少し軽いシェルが相応しいと思う。

不人気で伸びしろもあるという事で、純正仕様にこだわらず当店風に仕立てる事にした。思い返してみるとこの針が入って来る度にこんな風にいじっている。


純正シェルを外して汎用のプレスシェルに組み換え。ダンパーがいなした力を拾わずに受け流してくれて、かつ音が細らない丁度良いものを。
リード線は最近入荷したエナメル線で製作した。この線はこのところのめっけものだ。1920年代の米国製品としか判らないメーカー不詳の線ながら非常に良質で、シェルリードに用いると、生真面目なキャラクターの針を好い按配に踏ん張りの利いた腰のある音へとしつけ直してくれる。


仮組みで試聴してから、更にもうひと手間チューニングを施して完成。
無事狙った音にまとまった。

それにしてもつくづく味も素っ気もない佇まいだ。せめて針のグリップ部の色だけでも違っていたら・・・と思うけれど、では何色だったらましに見えるのかと問われたとしても、すぐにはちょっと思いつかない。