2025年5月29日木曜日

PICKERING NP/AT-S 未使用品箱入り

 ピカリングNP/AT-Sのデッドストックです。

シェル組み付け済み品

同社の針らしい安定感のある音の太さや力感に加えてしなやかさを感じる表現には、針の個体差や製造時期由来のキャラクターといった要素もあるかも知れません。

製品規格(青線部)


代理店は東志。郵便番号が3桁表記なので、この個体は1998年以前の製品です




特徴的な太く短いカンチレバーに0.7ミル接合円錐針。未使用品なので針先はきちんと丸みがあり(*摩耗した針は尖ります)、ダンパーゴムの状態も良好です。

シェルは上下2ピン仕様




針径の大きな丸針でしっかりと針圧を掛けて鳴らす古風なスタイル。
生き生きとした力感がありながら聴き疲れする事なく一日中でも毎日でも音楽を楽しめるキャラクターの針です。

本品は未使用品としての販売ですが、試聴点検のためLP1枚分ほど音出ししています。


・PICKERING NP/AT-S未使用品・・・・・18,000円(税込み)*
*商品の性格上、発送での販売については初回取り引きのお客さまは現状販売に限り承ります。

2025年5月26日月曜日

シュルツKSP-130Kの修理

 久しぶりにシュルツKSP-130Kの修理。


この個体は中高域に音割れが出ていたので、フレームからコーンアッセンブリーを外してボビンやギャップなど要所を清掃・調整して組み直した。

特徴的なスポンジエッジを採用したシュルツのKSP系ドライバーは、130も215もきわめて優秀なユニットだが、個体差が大きく、製造時期や生産単位ごとの造りの差に各部の経年変化や保管状況、使用環境といった要因も加わって昨今では不具合を生じる個体も出てきている。

ダンパーの芯出しをしたらエッジを張り、テスト信号を出音させながら微調整

この個体は前期のリアマウント仕様なので、エッジの外周にガスケットを貼る
分解時に剥がして痩せた厚みの分だけガスケットの下地紙を足す


最後にガスケットのフェルトを貼り戻して完成




次の個体は前枠裏面にガスケットの張られたフロントマウント用の後期型

不具合は、音割れに加えて音が出たり出なかったりというもの。確認してみると、ボイスコイル引き出し線が切れて錦糸線の断面が端子に触れた状態だった。同様の不具合は過去にも見ている。

製造時期に関わらず、シュルツのドライバーには引き出し線である錦糸線をほとんどたわませずに端子へハンダ付けしている個体が見受けられる。線がピンと張った状態に近いほど、再生時のコーン紙の振動による疲労は硬く柔軟性の無いハンダ付け部付近に蓄積する。シュルツは柔軟なダンパーと柔らかいスポンジエッジによって高い自由度でコーンを振幅させる構造なので、錦糸線が切れるのも道理と言える。
切れた時点で錦糸線には長さの余裕が全く無いので、端子側から線を伸ばして端子寄りの中間点で接ぐ。錦糸線はたわませ加減にする。


無事に導通がとれた。あとは実際に音出ししながら良否を確認していく。


こうした修理や調整はユニットの音質の根本に関わる部分へ手を入れるものなので、今の自分に出来るのはモノラル一本ごとの修理だけ。ステレオペアとなるともう手が出せない。左右のドライバーの音を揃えるノウハウを持っていないためだ。


抜きん出た実力を活かすために使いこなしの求められるシュルツは、時として音楽を置き去りにした“オーディオ道”みたいな方向へ持ち主を引っ張っていく危険性もあわせもっているので、そういう意味では少しばかり厄介な存在とも言えるし、また、修理する側から見れば、かなりの厄介者と言える。


2025年5月11日日曜日

アウトレット品・オリジナルシェルリード線

 比較試聴などで使用したオリジナルリード線を数量限定でアウトレット品として販売いたします。

線材は下記の3種です。

いずれも通常販売品と同じ製品仕様ですが、一度カートリッジに取り付け使用したうえで取り外した使用歴のあるものです。端子部には着脱にともなう痕があります。線材部には着脱にともなうヨレはありますが、キンクや屈曲はありません。


・1930年代フランス製エナメル銅線(線径0.2mm)完売
・1920年代ウェスタン・エレクトリック製エナメル銅線(線径0.25mm)
・1920年代イギリス製綿巻き銅単線(線径0.3mm)完売
・米アナコンダ製エナメル銅線(年代不明・線径0.4mm)


いずれも現状にて店頭販売のみの取り扱いとなります。

・アウトレット品・オリジナルシェルリード線・・・・・各1,500円(税込み)


2025年2月24日月曜日

カスタムカートリッジ M44-7SV/M44G-SV

 SHUREのM44G、M44-7を当店でカスタマイズしました。

このカスタマイズは、レコード針が盤面をトレースする際に針の周囲に発生する音や振動を、排除すべきものではなく活かすものと捉えて再生音に取り入れることをコンセプトとしたものです。カートリッジのボディを突板(Sliced Veneer)で仕上げたところから、それぞれM44-7SV、M44G-SVと名付けました。


ある音色で響いている物体に何か別の物体をつけ足せば、音色は変化します。レコード再生時にフォノカートリッジの各所に発生し再生音に影響を与える「針鳴き」や「シェル鳴り」と呼ばれる不要振動(=金属やプラスチックの共振)を、カートリッジ本体部に突板を張ることにより木の響きで整え、再生音として活かすというのが本品の仕組みです。
一方で、響きの量(=鳴きの大きさ)については、何かを付け加えたらその分だけ減衰していきます。木を付け足すことで響きの質が向上する反面、響き自体は削げ落ちて行く。このトレードオフの関係の中で、いかに響きを目減りさせる事なく良い形へ変換できるかが本品を作る上で最大の課題でした。


製作にあたっては、使用する突板を徹底的に薄くすることに努めました。小さなカートリッジの微弱な振動に対して突板そのものが制振材として作用してしまうジレンマから逃れるためです。
薄く抄きなおした突板は、これもまた制振材になり得る接着剤やテープを用いることなくカートリッジに張って行きます。突板を張り込むなかでは外観部の凹凸を利用して中空部を作り、響きの量も確保します。この作業はもっとも困難な工程です。

塗装には弦楽器と同じシェラックニスを使用。ラックフレークは硬軟を試し、もっとも好ましいものを選んで使っています。
ニスは、カートリッジのサイズに対して通常の濃さで用いると塗膜が厚くなり過ぎて細く硬い音になるため、薄く希釈したうえで筆は用いず、拭き上げと乾燥を繰り返すことで塗り重ねています。これによりしなやかな響きを得られ、見た目も美しく仕上がります。また、ニスが硬化することで紙のように薄い突板には実用に耐え得る強度が出ます。

以上で完成です。


仕上げたカートリッジは、より響きが活きるような形でヘッドシェルへ組み付けます。比較試聴の結果、シェルはアルミの削り出しタイプを採用。リード線には当店オリジナルのもの、針にはいずれも中電のM44シリーズ共用交換針の新品を組み合わせ、トータルで音をまとめています。


M44-7SV

M44G-SV

M44G-SV、M44-7SVは、いずれも店頭でご試聴いただけます。
同じヘッドシェルに組み付けたノーマル品との比較試聴も可能です。響きの質感や音像の実在感、空間再現性の違いを体感していただければと思います


ベースとなるカートリッジや部材の確保状況から、いずれも数量限定・不定期製作での販売となります。

・M44-7SV、M44G-SV・・・・・各40,000円(税込み)
いずれもヘッドシェル・リード線組み付け済み


*注意事項*

本品の外観部には非常に薄い木材を使用しております。取り扱い時は充分ご注意ください。

本品は外観の塗装にシェラックニスを使用しているため、アルコールやアルコールを含む溶剤、クリーナー、ウェットティッシュ、飲料などが付着しないようご注意ください。これらのものが付着した場合には、塗装が軟化・溶解します。


2025年2月22日土曜日

Vintage Join 5インチスピーカー・ペア

ヴィンテージ・ジョインの近作が入荷しました。


同店のスピーカーとしては珍しく今日のドライバーを採用したモデルです。

口径5インチ(≒13センチ)。センターキャップではなくフェイズプラグを採用したドライバーは現代的な佇まいながら、磁気ギャップが前方へ抜けている構造のためかラバーエッジを採用したドライバーにありがちな癖も無く素直な出音。実在感のある明澄さをそなえていながらも、量感のある聴き疲れしない音が特長です。

昔日のユニットを採用した製品群と地続きの音はヴィンテージ・ジョインの文法に則った在り様で、古今を問わず素性の良いドライバーをその実力に沿って無理なく鳴らす事がスピーカーにとっての肝要であると気付かされます。

サイズ:W190・H230・D160mm (端子部を除く)


・Vintage Join 5インチスピーカー・ペア・・・・・55,000円(税込み)

2025年2月21日金曜日

ダイトーボイス 業務用モノラルアンプ 当店カスタム品

  業務用のモノラルパワーアンプを当店でカスタマイズしました。



本品は、ダイトーボイスが店舗内BGM用に販売していた小型のモノラルパワーアンプです。耐久性の求められる業務用機らしく良質な部材を使用してシンプルな構成で造られており、素直な出音が特長です。
アンプICは20W・AB級のLM1875T、コンデンサ類はKMGシリーズなどニチコン製で統一

今回は、本機の特長を活かしつつ、要所のパーツを換装することで更なる音の充実を図りました(定数や回路は変更していません)。

ボリュームポット換装に伴い外観のコントロールノブもインチ規格品へ変更。デッドストックのヴィンテージ品を組み合わせ、特定の方に響くような佇まいに仕立てました。

仕様
出力:16W、入力:RCA1系統、スピーカー出力:1系統
仕様上、電源スイッチ操作時にポップノイズが出ます。

サイズ:W207・H65・D110mm(突起部を除く)

中古品のため、外観には使用に伴う傷があります。また、本品は完動品ですが、商品の性格上、現状販売といたします。

・ダイトーボイス業務用モノラルアンプ・当店カスタム品・・・・・10,000円(税込み)



2025年2月9日日曜日

店外環境でのM44-7SV試聴

 お客さま宅のシステムにて、突板カートリッジ・M44-7SVとノーマルのM44-7を比較試聴した。

プレーヤーはヤマハGT-750、アンプはパワーがTEACのAX-501でプリがQUAD 44、スピーカーはHARBETHのモニター20。

構成としては少し変則的だが、音質的に比較試聴しやすそうなものをお客さまの休眠機材の中から選んで即席でシステムを組み、試聴での音の基準とした。

ノーマルのM44-7と比べると、M44-7SVの方は音の立体感が増す。音場の中の音像やその位置関係が明確化し、実在感をともなって現れるようになる。また、音源中の暗騒音が低くなったように感じ、音の背景が澄む。

店で聴く以上に両者の音の違いが明確に出たので驚いたが、これは、今回試聴した環境が店よりもかなり広く天井高もあり、スピーカー後方に雪平鍋のような浅い凹凸のある壁板が張られたオーディオルームだったためだと思う。電源もクリーン電源だった。

M44-7SVは、音決めの段階では徹底的にリアリティを追求するというような事はせず、毎日聴く事を踏まえてごくわずかに角を丸めた音へとまとめたつもりだったが、今回の環境ではそれでもかなりリアルな音と感じたし、お客さまの感想も同様だった。

音の良し悪しは万別で聴き手の嗜好によって決まるものなので、この音を好まない方や相性の悪いシステムというのも当然ながらあると思う。聴き手の側へ実寸よりも大きな音像が迫り出すような出音や、「ウォール・オブ・サウンド」と呼ばれるようなひとかたまりになった音を好む向き*。また、特定の帯域が強調されたり限定された楽曲やジャンルに向けて構築されたような性格のシステムとは、このカートリッジは合わないかも知れない。ただそれも実際に組み合わせて鳴らしてみなければ分からないところだけれど。

*加えて、音像の周囲にエコー成分の太い輪郭線を伴うような、明確“でない”音像を好む向き。