2025年12月6日土曜日

謎エナメル線のシェルリード


面白い線材が入荷したのでシェルリード線に仕立ててみました。

この線はアメリカの古いエナメル銅単線です。1920年代の米国製とまでしか判らないメーカー不詳の線ながら、生々しく太い出音が特長で、音の細い針を好い按配にしつけ直してくれます。

お手持ちのカートリッジで、端正だけれども少し生真面目過ぎたり、細身で神経質な音の針にはお試しいただきたい線材です。もちろん音の太い針とも好相性です。


・謎エナメル線のシェルリード・・・・・4000円(税込み)



・製品についての注意事項・

*本品は製造から長い年数を経た古線材です。きつい屈曲や繰り返しの曲げ伸ばしといった線材にとってダメージとなり得る取り扱いは避けてお使いください。

*交換時の断線や、交換作業に伴うカートリッジの破損等が発生した場合、当店は一切その責を負いません。ご購入はこの点をご了承いただいた場合のみ承ります。



2025年12月1日月曜日

腰高な音を良い感じに

 テクニクスのMMカートリッジを持ってお客さまがご来店。

「ブログ観たんですけど、これのリード線を換えて欲しいなと思って」

 「ああ、この針。以前お話をうかがってどんな音か気になっていたんです」

「ちょっと聴いてみてもらえますか?」

さっそく試聴してみる。

 「だいぶ腰高な鳴り方ですね。純正針じゃなくて互換針だから、針のキャラクターもあるんでしょうけど」

「リード線の交換でバランスの良い音になりますか?」

 「試してみないと分かりませんけど、今のこの音よりは良い感じにできると思います。こういう音の針にはおすすめの線があるんです。まさに昨日のブログに書いたエナメル線で、どこの線か分からないんですけど、音の細い針にえらい効くんですよ。試してみますか?」

お客さんのゴーサインが出て、さっそく交換。

1920年代米国製、メーカー不詳のエナメル線

 「さっそく聴いてみましょう。アンプのボリュームはさっきのままです」

交換前に試聴した曲を聴き返す。

「・・・ぜんぜん違いますね。リード線でここまで変わるんですね」

 「中高域のキャラクターはあんまり変わらないですけど、低域側がぐっと出るようになって聴きやすくなりましたね。あとはご自宅の環境でうまく鳴るかどうかですね」


帰宅後、お客さまから良い音で鳴っていますとメールが。よかった。

今回もこのエナメル線が良い働きをしてくれた。仕入れの際にはシェルリードとして使うことは全く想定していなかった線材なのだけれど。


2025年11月29日土曜日

AT10Gを組む


入荷品と一緒に入ってきたオーディオテクニカのAT10Gを仕立てた。

この針はVM型カートリッジのエントリークラスの製品として長く売られていたモデルだが、とにかく愛されない不憫な存在で、大方のオーディオ愛好家からは見向きもされない。音は悪くないので、個人的にはデザインの素っ気なさが不人気の主たる要因だと思っている。格好にもカラーリングにもおよそ質感と呼べるような色気はそなわっていないから、愛着や所有欲はどこにも引っ掛からずに滑り落ちて行くのだろう。

AT10Gにはデザインとは別に文句をつけたいところがある。販売時に組み合わされている純正シェルがこの針の性格と合っていない点だ。
アルミダイキャスト製の純正シェルは高品質ではあるけれど、AT10Gの振動系には重過ぎて、純正の仕様で鳴らしていると盤によってはアームが大きく揺さぶられて音揺れしてしまうのだ。この針にはもう少し軽いシェルが相応しいと思う。

不人気で伸びしろもあるという事で、純正仕様にこだわらず当店風に仕立てる事にした。思い返してみると、この針が入って来る度にこんな風にいじっている。


純正シェルを外して汎用のプレスシェルに組み換え。ダンパーがいなした力を拾わずに受け流してくれて、かつ音が細らない丁度良いものを。
リード線は最近入荷したエナメル線で製作した。この線はこのところのめっけものだ。1920年代の米国製品としか判らないメーカー不詳の線ながら非常に良質で、シェルリードに用いると、生真面目なキャラクターの針を好い按配に踏ん張りの利いた腰のある音へとしつけ直してくれる。


仮組みで試聴してから、更にもうひと手間チューニングを施して完成。
無事狙った音にまとまった。

それにしてもつくづく味も素っ気もない佇まいだ。せめて針のグリップ部の色だけでも違っていたら・・・と思うけれど、では何色だったらましに見えるのかと問われたとしても、すぐにはちょっと思いつかない。

2025年11月27日木曜日

REGA CARBON、YAMAHA GTシェル セット


英レガのカートリッジをヤマハのGTシェルに組み付けました。



レガ・カーボンはオーディオテクニカによるOEM品で、同社のAT3600Lをベースとして独自の針圧に調整された針を採用しています。

カーボン製カンチレバーに丸針の組み合わされたピックアップ部は安定感のある出音で、険を感じやすい一方で全く削げてしまうとモヤついて聴こえる中高域の角も絶妙な按配にまとまっています。

こうしたキャラクターや振動系の性格を踏まえて、組み合わせるヘッドシェルにはソリッドタイプのGTシェルを組み合わせました。裾野の広い盤石な音なので、音場や定位は鮮明に出そうという狙いです。
リード線は当店で多用しているヴィンテージの単線ではなく、あえて一般的な汎用の塩ビ線を組み合わせました。

本品のベースとなっているのはエントリークラスの廉価な針ですが、このモデルが長年造り続けられ、古くから海外の様々なメーカーにOEMされてきた事は、それだけこの針が製品として研がれ成熟している事を示しています。
毎日聴いて飽きる事がなく、オーディオの基準となり得る音の針です。


REGA CARBON・仕様

発電方式: MM(VM)型
針先: 接合円錐針
適正針圧: 2〜3g
出力電圧: 2.5mV
本体重量: 5.0g

・REGA CARBON、YAMAHA GTシェル セット・・・・・11,000円(税込み) *

*商品の性格上、発送での販売については初回取り引きのお客さまは現状販売に限り承ります。



2025年11月23日日曜日

SHURE 35シリーズ用純正交換針・2種

シュアー35シリーズ用の純正交換針です。

いずれも適正針圧1.5〜3グラムと中庸を得た仕様で、M44-7と同じ針圧の範囲で使用できます。それぞれマグネットの仕様に違いがあり、したがって出力電圧と周波数特性が異なります。

N25C周波数特性:20〜17,000Hz、出力電圧5mV


N35X

周波数特性:20〜20,000Hz、出力電圧6mV


両者はいずれも35シリーズに属するM25CとM35X用の交換針ですが、シュアーがアナウンスしている通りシリーズ内の互換性が担保されており、35系のカートリッジ各モデルでユーザーの使い方や好みに合わせたカスタマイズが可能です。

いずれも取り扱い説明書に2016年と刷られている事から、2016年から2018年の最終ロットにかけての未使用新品です。


・シュアー純正交換針 N25C、N35X・・・・・各6,600円(税込み)*

*商品の性格上、発送での販売については初回取り引きのお客さまは現状販売に限り承ります。



これらの交換針については、音についての評は書きません。一つ前の記事に書いた事がその理由です。

2025年9月12日金曜日

35シリーズの針


SC35Cの針と一緒に同じ35シリーズの交換針のデッドストックが何種かまとまって入荷した。




35シリーズや44シリーズなど、シュアーではシリーズ内の針の互換性を保証しているので、これらの針は、たとえば35シリーズであれば最古参のSC35Cを後発の針と組み合わせることで軽い針圧へ変更したり、より高出力・広帯域の音にアップグレードしたりとそれぞれの特性を活かしたカスタマイズができる。


今回入荷した針は最終ロット付近のごく新しいもの。シュアーがアナログ針の生産を終えてから7年あまり経つので、念のため販売前にはSC35Cに付けて一つひとつ試聴している。今まで不良品はひとつも無いが、個体差の大きさには閉口している。

シュアーの針には個体差がある。その事は以前から知っていたし、どんなものか充分解ったつもりでいたが、今回同じ型の針をいくつも聴いた事で、その認識が甘かったと痛感した。自分が思っていた以上に個体差は大きかった。

近年のメキシコ製に限った事ではないが、シュアーの針は見た目からして針の仕立てに一個一個バラつきがある。カンチレバーの付き方からダイヤチップの植わり方、製造時期が異なるとカンチレバーそのものの形状も違うし、SC35CとM44Gに至っては製造時期によって針径さえも異なっている。建前である製品仕様からして揺れがあるのだ。アナログの世界のこと、形が違うものの音が同じ訳はない。


そして、今さらながら気付いたのが、ダイヤチップの仕様だ。


説明書に“All Shure styli feature a polished, natural diamond tip”とある。シュアーは近年の工業用ダイヤモンドでは一般的でなくなった天然ダイヤを針先に採用していたのだ。


スタイラスチップが人工ダイヤでないと知って、個体差のことがストンと腑に落ちた。


これが針の製造を終えるまで貫かれたシュアーのこだわりだとしたら、針の個体差も良し悪しではなく個性であり、それも含めてシュアーの音なのだと好意的に理解すべきかも知れないし、そう捉えるしかないかも知れない。


ただ、そんな風に弁護してはみたものの、同じ型の針でもスパッとした音色の個体と角の取れた穏やかな出音の個体が入り交じっている。「こういう音です」とひと言で云えないほどキャラクターに振れ幅があるのは困ったものだ。








2025年9月1日月曜日

再改変

 良い部材が手に入ったので、売れ残りのモノラルアンプを下げてきてもう一段煮詰めてみた。

このアンプは当店でカスタマイズしたもの。カスタマイズとは言っても定数は一切変更しておらず、ボリュームポットや内部配線、ハンダといった音声信号の通り道の部材変更だけで音を作っている。

今回もやっぱり定数変更はせずに部材を再変更しただけだが、狙った通りの音になったのと同時に、少し前からうっすら思っていた事の裏が取れた結果となった。


多くの人にとっての“良い音”になる条件は、モノラルとステレオでは異なるということ。ステレオで良い音を聴かせるペアスピーカーの片側一基をモノラルで鳴らすと必ずしも良い音で鳴らない。それと似た事が、音声信号の通り道でも起きていた。