SHUREのM44G、M44-7を当店でカスタマイズしました。
このカスタマイズは、レコード針が盤面をトレースする際に針の周囲に発生する音や振動を、排除すべきものではなく活かすものと捉えて再生音に取り入れることをコンセプトとしたものです。カートリッジのボディを突板(Sliced Veneer)で仕上げたところから、それぞれM44-7SV、M44G-SVと名付けました。
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ある音色で響いている物体に何か別の物体をつけ足せば、音色は変化します。レコード再生時にフォノカートリッジの各所に発生し再生音に影響を与える「針鳴き」や「シェル鳴り」と呼ばれる不要振動(=金属やプラスチックの共振)を、カートリッジ本体部に突板を張ることにより木の響きで整え、再生音として活かすというのが本品の仕組みです。
一方で、響きの量(=鳴きの大きさ)については、何かを付け加えたらその分だけ減衰していきます。木を付け足すことで響きの質が向上する反面、響き自体は削げ落ちて行く。このトレードオフの関係の中で、いかに響きを目減りさせる事なく良い形へ変換できるかが本品を作る上で最大の課題でした。
製作にあたっては、使用する突板を徹底的に薄くすることに努めました。小さなカートリッジの微弱な振動に対して突板そのものが制振材として作用してしまうジレンマから逃れるためです。
薄く抄きなおした突板は、これもまた制振材になり得る接着剤やテープを用いることなくカートリッジに張って行きます。突板を張り込むなかでは外観部の凹凸を利用して中空部を作り、響きの量も確保します。この作業はもっとも困難な工程です。
塗装には弦楽器と同じシェラックニスを使用。ラックフレークは硬軟を試し、もっとも好ましいものを選んで使っています。
ニスは、カートリッジのサイズに対して通常の濃さで用いると塗膜が厚くなり過ぎて細く硬い音になるため、薄く希釈したうえで筆は用いず、拭き上げと乾燥を繰り返すことで塗り重ねています。これによりしなやかな響きを得られ、見た目も美しく仕上がります。また、ニスが硬化することで紙のように薄い突板には実用に耐え得る強度が出ます。
以上で完成です。
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仕上げたカートリッジは、より響きが活きるような形でヘッドシェルへ組み付けます。比較試聴の結果、シェルはアルミの削り出しタイプを採用。リード線には当店オリジナルのもの、針にはいずれも中電のM44シリーズ共用交換針の新品を組み合わせ、トータルで音をまとめています。
M44-7SV
M44G-SV
M44G-SV、M44-7SVは、いずれも店頭でご試聴いただけます。
同じヘッドシェルに組み付けたノーマル品との比較試聴も可能です。響きの質感や音像の実在感、空間再現性の違いを体感していただければと思います。
ベースとなるカートリッジや部材の確保状況から、いずれも数量限定・不定期製作での販売となります。
・M44-7SV、M44G-SV・・・・・各40,000円(税込み)
いずれもヘッドシェル・リード線組み付け済み
*注意事項*
本品の外観部には非常に薄い木材を使用しております。取り扱い時は充分ご注意ください。
本品は外観の塗装にシェラックニスを使用しているため、アルコールやアルコールを含む溶剤、クリーナー、ウェットティッシュ、飲料などが付着しないようご注意ください。これらのものが付着した場合には、塗装が軟化・溶解します。